子どもの頃、現役で(?)岩波少年文庫を読んでいた時から、『長い長いお医者さんの話』は気になっていたものの、何となく読みそびれていました。
去年、カレル・チャペックの諸作品を読み始めた時、遅ればせながら『長い長いお医者さんの話』がチャペックの作品だったことを知り、読もうと思い、ようやく読めた次第です。
で、どうだったかというと……。何だか疲れました。要するに、表題作の「長い長いお医者さんの話」のお医者さんたちに代表されるように、各作品で次々に長い話をする人が出てくるのです。
そして訳が……。何せ中野好夫さんの訳ですから、言い回しが古めかしいのは仕方がないです。表題作の「長い長いお医者さんの話」で魔法使いが喉に詰まらせるのがウメの種なのも、日本の子に馴染みやすいようにしたんだろうな。ヨーロッパの話なのだから、プラムの種だと思うけど(実際、新訳にあたる栗栖茜さんの『長い長い郵便屋さんの話』では、プラムの種になっている模様)。
でも、「旅行免状」は査証(ビザ)だよね。「ダッタン・ソース」はタルタルソースのことだし。カイロにある「高いお寺の塔」って、モスクの尖塔(ミナレット)でしょうが。そのくせインドのベナレスには「たくさん教会」があるときた。こここそ、「ヒンドゥー教のお寺」で良いと思う。
何より問題なのは、不快語(差別用語)がやたらに出てくること。岩波少年文庫では『アラビアン・ナイト』も中野好夫さんの訳で出していますが、そちらは新版では差別用語の言いかえがされているのです。なのになぜ『長い長いお医者さんの話』では、言いかえをしなかったのでしょう。編集部のチェックが甘かったというか、まるでせずに、旧版の文章のまま、カバーだけ新しくしたとしか思えません。
とはいえ、チャペックが書いた時の時代性が感じられ、興味深かったところもあります。『長い長いお医者さんの話』は1931年発表なのですが、収録されている話の1つに満州が地名だけ登場します。当時すでに日本が満州への侵略傾向を強めており、翌1932年には満州国独立が宣言されます。「王女さまと子ネコの話」に登場する日本は、何だかジパング的な不思議の国ですが、それにはチェペックの、日本には隣国に侵略する国ではなく、むしろ不思議の国であってほしいという願いが込められているのかもしれない。そんなことを考えてしまいました。