世界から1字ずつ音が消えていく、という設定で書かれた小説です。音が消えると、その音を使用するものも消えるわけです。例えば「あ」が消えると、「朝」という言葉も消えるということ。最初の「あ」に始まり、「ん」が消えることで、小説は終わります(別に五十音順に消えるわけではありません)。
次々に音が消えても、結構自然に物語は展開されます。物語中でも、主人公の小説家は語彙が豊富なので割と不自由なく話せるけど、喫茶店のウェイトレスはろくに喋れない、というシーンが出てくるのですが、筒井康隆自身が語彙が豊富だからこそ、書けたのでしょうね。
しかもすごいのは、これが連載であったこと。「この音を、あんなに早く消さなければ良かった」なんて、後悔することはなかったのでしょうか。
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もちろん、娘の名前を構成する音が1つなくなったところで、「娘」とか「三女」という言葉はまだ残っているのだから、その子が消える必要はないだろう、などの突っ込みは可能です。「別の言葉での言い換えが可能なら、その存在は消えない」と、わざわざ断っているのですから。でも、だいぶ音が消えてから主人公の自伝が書かれたり、詩が書かれたりもしているのがすごいです(さすがに詩は、あまり意味をなさないものだけど)。
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あと、さりげない注目ポイントは、山内ジョージの手による各章冒頭のイラスト。消えていく字がカタカナで可視化されているのです。例えば「あ」なら、アルパカの頭が「ア」の形になっていて、それがぽこっと外れていくイメージです(言葉で説明するのは難しい)。
とりあえず、一読の価値はあると思います。
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