魅惑のマンホール、可愛い単管バリケード

日本各地・世界各地のマンホール蓋を中心に、単管バリケードも紹介します。街路樹保護盤やピクトグラム、救命ブイなど、様々なカテゴリーの記事をアップします。

『面白可笑しくこの世を渡れ』(遠藤周作)~なぜこれを21世紀に出版する必要があったのか~

『沈黙』などで有名な遠藤周作が生前発表したエッセイのアンソロジーです。題名に引かれ、読み始めたのですが、結構疲れました。なぜかというと、21世紀の現在なら許されないような悪戯の話とか、女性蔑視的な主張が次々に出てきたからです。

 

 

いや、遠藤周作は悪くないと思います。巻末の出典を見ると、一番古いものは1969年に書かれたもので、1970年代・80年代に書かれたものがほとんどなのですから、当時の時代背景なら仕方ないでしょう。

 

でもそれらの文章を、なぜ2014年に出版する必要があったのか、疑問です。河出書房の編集者がえらく時代錯誤な考えを持った人で、自分の考えに合致した遠藤周作の文章を集めたのかと疑ってしまいます。まぁさすがにそんなことはないとは思いますが、自分が描いたものとはいえ、古い文章を引っ張り出されてエッセイ集を編まれた遠藤周作が気の毒です。このエッセイでしか遠藤周作のことを知らない人が仮にいたら、いろいろな意味でとんでもない人にしか思えないことでしょう。

 

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「悪戯の勧め」、「運命を知る知恵」など、各章のテーマに合致したエッセイを集めているわけですが、章の中で発表の時期が様々なものが順不同に並んでいるので、混乱します。せめて章の中では発表順にするとか、出典をそれぞれのエッセイの末尾につけるとかしてほしかったです。あまりの話題の古さに唖然とし、何度出典を確かめたことか。

 

とはいえ得るものがなかったわけではありません。霏々として、という言葉は初めて知りました。「物事が絶え間なく続くさま」だそうで、本文では「東京に、霏々として雪の舞った夜」と使われています。美しいですね。

 


 

 

あと、言葉としては知っていたけど、豚児が多用されているのがおかしかったです。自分の子どものことを指す謙遜表現ですが、豚児か……。

 

もう一つ、「私には印度を語ったり、ここを舞台に何かを書く気持ちは全くなかったが」という言葉が出てくるのですが、後年『深い河』を書いていますよね。20年経って、かつて見たものを生かした小説を書いたんだなぁと思うと、感慨深いものがあります。